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拒食症や過食症は、欧米の若い女性に多い病気ですが、日本でも1980年頃から患者数が増加し、世間の注目をあびています。これらの病気につながる若い女性のやせ願望とダイエットの行き過ぎは、先進諸国で社会問題となっています。
一方、欧米では、30年ほど前から、むちゃ食い症(過食性障害ともいう)が増加しています。むちゃ食い症は、ストレスにうまく対処できなくて発症する新しいタイプの摂食障害です。若い女性のみでなく、若い男性や中年の男女にも見られます。しばしば、うつ病などのこころの病気や、メタボリック症候群などのからだの病気をひきおこします。
日本では多くの人がむちゃ食い症をよく知らないようです。しかし、わたしたちが7年前に行った調査で、むちゃ食い症は日本で最も頻度の高い摂食障害ですが、受診率はきわめて低いことが明らかとなりました。ここ5年ほど前からわたしの外来を、むちゃ食い症の人が多く受診しています。
むちゃ食い症の人は、むちゃ食いという特徴ある食べ方をします。むちゃ食いには、二つの特徴があります。一つは、大量の食べ物を短時間(通常1−2時間以内)に食べることです。いわゆる「ドカ食い」、「一気食い」です。二つ目の特徴は、このむちゃ食いを自分で止めることができないことです。むちゃ食いの間は、人が変わったように、むちゃ食いにおぼれていて、これを自分でコントロールできなくなります。
過食症とはことなり、むちゃ食い症の人はむちゃ食い後に吐くこと、下剤を乱用することはありません。そのため、体重が急激に増加します。むちゃ食いの後は、罪悪感や後悔の念をもち、ゆううつな気分になります。むちゃ食い症の人は、むちゃ食いを非常に恥ずかしいことと思っていて、誰にも打ち明けられず、ひそかに一人で悩んでいます。
適切な治療を行うと、むちゃ食い症は、拒食症や過食症より治る率が高く、また、併せ持っているうつ病やメタボリック症候群なども治ることが明らかとなってきました。
欧米諸国では、エビデンスにもとづいた、むちゃ食い症の治療ガイドラインが作成されています。欧米で行われているむちゃ食い症の治療法は、心理療法が中心で薬物療法を併用します。多くの国で、認知行動療法が心理療法の第一選択です。
わたしのクリニックでは、健康保険によるむちゃ食い症の外来治療を、認知行動療法を参考にして行っています。1回の診療時間が短いので、各ステージの内容は、むちゃ食い症に関連する部分を抜粋し、治療週数とセッションの回数で調整しています。
治療戦略は、生活リズムの正常化を最優先し、食行動の改善をはかります。
これで多くの場合、むちゃ食いは著明に減少し、体重も元に戻ります。その後、むちゃ食い症では、患者の性格特性にあったストレスコーピングが治療効果をあげます。体重/体型に対する認知のゆがみは、拒食症や過食症に比し通常大きくないようです。うつ病を併発していることが多く、この場合は、並行してうつ病の治療を行うことが重要です。むちゃ食い症は、拒食症や過食症に比し治癒率が高く再発が少ないです。とはいえ、早期発見、早期治療が大切です。
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